2015年1月28日水曜日

反転授業の「学力格差」を解決する2つのアプローチ

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反転授業は,ある意味,学習意欲のある学生とない学生の格差を拡大する教え方です。(それを批判する記事もあります。カリフォルニアの高校で、一部「反転授業」が導入された背景 生徒間の学力格差をワープスピードで拡大する、残酷なツール : Market Hack ) 
今回はこの問題を解決する2つのアプローチを紹介しましょう。

反転授業の「学力格差」を補うには学びあいのグループワークを

一つ目の解決方法として,反転授業に学生同士が互いに学びあうようなグループワークを入れると補完できます。一例として,それまでの学習で生じた技能の格差を埋めるような学びあいのグループワークを行った事例を紹介します(ただしこの事例は2014年時点では反転授業にはなっていません)。この事例「ソフトウェア設計論」という授業では,コンピュータシステムがどのように機能してほしいかを書いた箇条書きの記述を元に設計図を書く技能を習得することを学習目標としています。当然のことながら,技能の習得度合いには個人差がとても大きいです。
そこで,学生同士でグループを作らせて,互いの設計図の答案を交換し,設計図の不備を指摘しあうようなグループワークを課しました。同じ箇条書きの記述を与えられても,勘のいい学生は多くのことに気づくものです。グループワークによってそれを目の当たりにすると,勘の悪い学生でも「なるほど,そんなことも考慮しないといけないのか」と気づくことができます。
反転授業では,動画等で予習するという側面ばかりが注目されますが,それを全員に行き渡らせるためには,「晴れの舞台」である授業の場が鍵となります。予習すればするほど授業で生き生きと活躍できる,そんな動機付けが与えられれば,予習してくるようになります。私が紹介した事例では,他の人の設計図の問題点を指摘すること,それを通して学び合いをすること,そういう要素が動機付けにもなっているというわけです。

コメント1

はい,その逆効果があることを実感することが多々あります。再履修者をクラスに含めてしまうと,ワークショップはやりにくいですね。

完全習得めざして底上げを図れ!

もう一つの考え方は,学習意欲や技能の「格差」が問題ではなく,学習意欲や技能が「低い」学生が存在することが問題だと,問題を捉えなおすことです。この考え方に基づくと,学力の底上げ,すなわち完全習得(mastery)を目指せば良いということになります(完全習得学習については完全習得学習と形成的テストを参照ください。反転授業においても完全習得型反転授業 あるいは Flipped-Mastery model として論じられています。)
この考え方に基づくと,予習時に小テストも合わせて行い,その成績によって授業を組み立てるやり方が考えられます。たとえば小テストが不合格だった学生には個別指導を通して理解につまづいている箇所を特定し再学習させ,小テストが合格だったら高度な課題を与えて深化学習をさせる,という感じです。
このときに小テストを効率良く採点することが重要になります。私の授業では今のところ主に人手でこの採点作業を行っています。もちろん,できれば小テストをeラーニングにして自動化したいところです。現在,徐々に移行しようとしているところです。

コメント2

なんとか大人数授業でも導入したいところなのですが,一足飛びにはうまくいきません。チャレンジ中です。

コメント3

ゲーミフィケーションは,ある意味完全習得を目指す方向性の中の1つのアプローチに位置付けられるのでしょうね。
この記事は反転授業の研究での議論を元に書き下ろしました。

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2015年1月27日火曜日

「学びの竜巻」をもたらす5つの教授方略〜通常の授業スタイルの場合

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「学びの竜巻」とは,ラーニング・パターンで提唱されている理想的な学習スタイルの1つです。
学びの竜巻 Tornado of Learning
与えられた水を、単にスポンジに吸い込むような学びから、 自らの興味・関心の「竜巻」に絡め取っていくような学びへ。
どうでしょう? このような「学びの竜巻」が形成されると,極めて高い学習効果が期待できそうですね。
「学びの竜巻」を生徒や学生に実感してもらうのが,21世紀型の教師の職務だと思うのです。
極めて高い学習効果が期待できる「学びの竜巻」を学生たちにもたらすには,教師はどのようにしたらいいのでしょうか? 今回はこの授業設計を考えてみたいと思います。

ラーニング・パターンからの考察

ラーニング・パターン No.10 「学びの竜巻」の記述から授業設計を考察してみましょう。
受け身で情報を吸収するだけでは、効果的な学びにはつながらない。
自らの興味・関心の「竜巻」に絡め取るように、情報をつかみ、自分がもつ知識と混ぜ合わせ、関係づける。
すなわち,「学びの竜巻」を起こすためには,アクティブ・ラーニングを教授方略の主軸として位置づける必要があります。
何かに取り組んでいるときに必要に迫られて学んだ知識は、しっかりと身につくことが多い。それは、やりたいことを実現するために必要な情報を自らつかみにいくからであり、それを使うために他の知識と関係づけるためである。
このことから言えるのは,アクティブ・ラーニングの中でも,プロジェクト学習(Project-Based Learning) や 問題発見解決型学習(Problem-Based Learning) が適合しそうだということです。そしてどちらの教授方略を採用した場合でも,「学びの竜巻」をもたらすには,得られた経験学習をふりかえって知識体系と関連づけることが肝要だと言えます。よくあるPBLでは,この辺りが甘かったりすることが多く,思ったような効果を上げられません。この観点からは,「学びの竜巻」を起こすには,プロジェクトや問題発見解決のサイクルを数回繰り返すことも大事だと言えます。
さて,「学びの竜巻」をもたらすことは,PBL(すなわちプロジェクト学習や問題発見解決型学習)ではない通常の授業スタイルでできないのでしょうか? 私は授業設計次第で,通常の授業スタイルでも「学びの竜巻」をもたらすことは十分可能だと考えます。その授業設計については後ほど考察します。
アウトプットから始まる学び(No.7)は、まさにその効果を活用する学びの方法である。
したがって得られた知識と経験を他者に伝えることを授業に盛り込むと効果が期待できます。
また、創造への情熱(No.22)がもてるテーマを選ぶというのも、学びの竜巻を発生させるうえで重要となる。
このことからは授業の最初での動機付け,とくに知的好奇心の喚起が重要だと言えます。
教えてくれることを自らつかみ取っていくことは、教わり上手になる(No.13)ためのコツでもある。
したがってアクティブ・ラーニングのアクティビティ,たとえば調べ学習が効果的なのでしょう。 そして教わってから学ぶ順番ではなく,学んでから教わる順番にすることで教わる際の吸収力を高めることもポイントです。

「学びの竜巻」をもたらす5つの教授方略〜通常の授業スタイルの場合

では,通常の授業スタイルで「学びの竜巻」をもたらす授業設計を考えてみましょう。ポイントは次の3点です。
  1. 最初に学習内容の概要と応用を話す。
  2. これから学ぶことを踏まえて発問させる。
  3. 講義に入る前に,キーワードを予習させる。
  4. 講義ではキーワード同士の関連を強調する。
  5. 学んだことを小テストやレポートで記述させる。

1. 最初に学習内容の概要と応用を話す。

これはARCSモデルのR:関連性を喚起する定石です。すなわち,学習者の身近なことや将来につながることに関連するようなことは学習意欲が湧きやすいので,身近な関心事や将来の夢につながりやすい応用分野の話をすると授業の魅力が増すということです。応用について話すことは,学生が自らの興味関心の「竜巻」に絡められる効果も期待できます。学生に情熱を抱かせることができたら大成功です。

2. これから学ぶことを踏まえて発問させる。

これから学ぶことについて知りたいことや素朴な疑問などをノートに書き記してもらいます。発問することで学生が自ら情報をつかみにいく姿勢に移行できます。 また,アウトプットから始まる学びの効果もあります。 もし可能なら,さらに教師が学生からの問いを把握して回答する時間を講義後に設けると満足度が高まるので,より効果的です。

3. 講義に入る前に,キーワードを予習させる。

講義で使われている言葉がわからないと,講義を聴く気が失せてしまいます。 そこで,あらかじめキーワードを予習させることで,この事態を防ぎます。さらに「学んでから教わる」順番にすることで,学生自らつかみとる姿勢を強化します。

4. 講義ではキーワード同士の関連を強調する。

「学びの竜巻」をもたらすには,学習内容と自らの知識や経験とを関係づけることが鍵になります。したがって,キーワード同士の関連を強調し,詳細については思い切って講義時間外に自習させます。講義時間外に自習させることで,アクティブ・ラーニングの要素が強まり,より「学びの竜巻」をもたらしやすくなります。

5. 学んだことを小テストやレポートで記述させる。

学習の仕上げとしてアウトプットさせることは,学んだことを自らが持つ知識体系の中に組み込みやすくする効果があります。 そこで,発表を取り入れたり,学び合いの時間を設けたりすることが効果的です。

まとめ

「学びの竜巻」が形成されると高い学習効果が期待できます。普段の授業の中でも「学びの竜巻」をもたらしやすくするような授業づくりは十分可能です。授業の中で,この記事で紹介した5つの教授方略(教え方)をぜひ試してください。

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2015年1月25日日曜日

ふりかえり: UX Fukuoka ペルソナ/シナリオ法(インタビューと上位下位関係分析法)〜予習編

12月に開催された UX Fukuoka に参加しました。「ブログを書くまでがワークショップ」というわけで書き始めたのですが,なかなか時間が取れず,今回不完全ながらアップすることにしました。
UX Fukuoka は企画・運営側に回ったり,毎回学生を送り込んだりしていますが,私自身が参加するのはまだ2回目?だったりします。
今回の UX Fukuoka に参加する動機は,これから教育活動を支援するウェブサービスを開発するにあたり,UX を考慮したいからです。学生に習得させるだけでなく私自身もきちんと習得しておこうと考えました。
とても残念なことに,スケジュール上,初回のペルソナ/シナリオ法しか参加できないことがわかってしまいました。第2回/第3回は学生に参加してもらうことにします。とくに第2回「構造化シナリオ法」は私が知らない技法だっただけに参加したかった。残念無念 orz

予習

せっかく半日かけて学ぶわけですから,予習をバッチリしておこうと考えました。自分で調べたり,浅野先生,ヨシカワさんにオススメされたりした書籍は次の通りです。
躊躇することなく全部大人買いしましたwww 学ぶことに関して社会人が学生に勝つには,財力と経験と学習意欲を思う存分発揮するのがポイントです。ちなみに学ぶことに関して学生が社会人に勝つには,時間と体力と行動力がポイントでしょうね。なので,社会人と学生ではおのずと取るべき学習スタイルが違ってきます。
最初にエクスペリエンス・ビジョンから読みました。この本は,最近の経営学(とくにビジネスモデルやマーケティング,リーンスタートアップなど)の知識や経験がある人には刺さる本じゃないでしょうか。私もなんとなく漠然と経営と UX の関係を夢想してはいました。エクスペリエンス・ビジョンでこれが具現化されているのを見て「これこそが欲しかったものだ!」と感嘆しました。つまり,エクスペリエンス・ビジョンで想定している読者像=ペルソナは私のように最近の経営学に強い興味を持っている人なんですね。ちなみに経営学の方面でもUX/HCDのように人間を観察し本質的な欲求を考察してソリューションを提示することの重要性が高まっています。現在のフロンティアはこの辺りにあるのですね。
さて,エクスペリエンス・ビジョンで示されているのは,UXを最大限考慮するビジネスの進め方の全体像と事例です。しかし,エクスペリエンス・ビジョンには具体的な手法はあまり書かれていません。そこで役立つのが情報デザインの教室情報デザインのワークショップです。これらの本には手法のレシピが書かれています。もちろんレシピに過ぎないので,実際に指導者のもとでやってみないとわからない部分が多々あります。しかし,どんなことをするのかのイメージはつかめるというものです。
エクスペリエンス・ビジョンに沿って UX Fukuoka のサービスデザイン三部作を概観すると,次のような感じに対応付けられます。
  • 第1回: ペルソナ/シナリオ法(ユーザ設定)
  • 第2回: 構造化シナリオ(バリューシナリオ/アクティビティシナリオ/インタラクションシナリオ)
  • 第3回: ペーパープロトタイピング(視覚化) 
「ブログを書くまでがワークショップ」といいつつ,まだワークショップ本体のふりかえりに到達していません。遅筆でスミマセン。 (続く...)

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2015年1月23日金曜日

積極的に失敗させよう〜プロジェクト学習を成功させる3つの教授方略

Learningにおいて最も大切なのは、トライアル・アンド・エラーすることができる場です。 うまくいくかどうか分からない状況でチャレンジすることこそが、成長につながるのです。
私も試行錯誤(トライアル・アンド・エラー)の体験,とりわけ失敗を恐れずに積極的にチャレンジすることがとても大事だというのに強く共感します。失敗した経験が少ないと,ちょっとした失敗ですぐに挫折してしまう打たれ弱いマインドになってしまいます。そういう失敗を恐れるマインドだと,積極的にリスクをとって新しいことに挑戦できません。現代日本に閉塞感を感じているとしたら,そういうリスクを回避する社会の雰囲気に起因するのではないでしょうか。
話を学習に戻すと,このような失敗を恐れない試行錯誤の体験は経験学習の観点からも有用であると言えます。経験学習入門には,経験学習すなわち経験から学ぶことで学習効果を高めるには,次の3つの要素が重要だとまとめています。
1.ストレッチ: 問題意識を持って,新規性のある課題に取り組む
2.リフレクション: 行為を振り返り,知識・スキルを身につけ修正する
3.エンジョイメント: 仕事のやりがいや意義を見つける
失敗を恐れずに挑戦するというマインドは,この中の「ストレッチ」に直結します。それができるようになるためには,挑戦するための土台,すなわち試行錯誤する場が重要な鍵だと経験学習入門では説いています。
田原さんのブログ記事に戻りましょう。
しかし、子どもや、生徒に対してとなると、別の難しさが生まれます。 「失敗しないで、成功させてあげたい」 という気持ちが生まれてしまうのです。
田原さんのおっしゃるように,学習者に試行錯誤をさせることは,指導者にとってはなかなか難しいことだったりします。
この「失敗から学ばせる」ことと「失敗しないで成功させたい」という思いのジレンマは,卒業研究指導や,経験学習の代表的な教授方略の1つ,プロジェクト学習 (PBL: Project-Based Learning)においても,しばしば起こりがちです。とくにプロジェクトが1回こっきりだと,何としても成功させなくてはという圧力がかかりがちです。そのような状況下では,失敗を恐れてしまい,有効なチャレンジに結びつきません。
では,どのようにしたらいいのでしょう? プロジェクトが1回こっきりだから「成功しなければ」という圧力がかかるのです。なので,プロジェクトを数回繰り返して,失敗して学習する機会を多くすることが第1のポイントです。
次に,経験学習入門でいう「リフレクション」すなわち,失敗から学ぶふりかえりの時間をプロジェクトの中に織り込むことが第2のポイントです。ありがちな PBL では,プロジェクト遂行ばかりに頭がいってしまい,プロジェクトを終えた後に十分なふりかえりの時間を確保していないことが多いです。それでは有効な学習に結びつきません。
もちろん田原さんの主張するように,失敗した時に致命的なことにならないように支援することが大事なことは言うまでもありません。
この3つをプロジェクト学習に取り入れることで,失敗を許容し失敗から学ぶことができるようなマインドが生まれてきます。ぜひ授業づくりに取り入れてみてください!
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